ピロリ菌について

ピロリ菌とは

ヒトの胃粘膜から最初に発見された細菌です。
ピロリ菌の感染は胃・十二指腸疾患の元凶です。
胃がん、胃・十二指腸潰瘍など重大な病気と関連があります。

胃がんの約8割がピロリ菌の感染によって生じるということが証明されています。
H.pylori感染症は根絶すべき疾患の一つとして考えられます。

胃には強い酸があるため、昔から細菌は生息していないと考えられていましたが、1983年にヒトの胃の粘膜から発見された最初の細菌がピロリ菌(Helicobacter pylori)です。
通常、胃の中の強い酸性の環境では細菌は生息できませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出し、胃の中の尿素を分解しアンモニアを作り、自分の周りだけ中性に近い環境を作ることによって長期間生存できます。
ピロリ菌が胃の中に永年住み着くと、慢性的な胃炎を引き起こし、萎縮性胃炎(胃粘膜の老化)を引き起こします。この慢性的に炎症状態が続いた胃粘膜が、胃がん、胃・十二指腸潰瘍の発生源となります。

ピロリ菌と関連のある疾患

胃や十二指腸の疾患のみでなく、胃と関係ない疾患とも関連しています。
「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」では、以下の疾患をピロリ菌の除菌が強く勧められる疾患として記載されています。

従来、除菌治療が保険適用となるのは胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃の5疾患のみでしたが、2013年に「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」が保険適用になりました。
ピロリ菌感染者のほとんどに「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」は存在するため、内視鏡的に胃炎と診断された「ピロリ菌感染症」のほとんどに対し除菌治療が保険適用になったものといえます。

H.pylori除菌が強く勧められる疾患

ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎

胃粘膜萎縮の改善効果、腸上皮化生の進展抑制効果、胃がんの発症予防効果も期待されています。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍

再発抑制、出血などの合併症が減少することが示されています。

早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃

有意に異時性がんの発生を抑制することが報告されています。

胃MALTリンパ腫

胃限局性であれば約60~80%は病理組織学的所見、内視鏡的所見、リンパ腫の寛解が得られることが示されています。

胃過形成性ポリープ

1.5%~4.5%で20mmを超える場合はガン化の可能性あり、サイズの大きなものや出血を伴うものは内視鏡的切除も考慮されますが、7割程度の症例で縮小効果が得られることが報告されています。

機能性ディスペプシア(H.pylori関連ディスペプシア)

内視鏡を行っても異常が見つからないのに、胃の痛みや胃もたれなどのつらい症状が続く病気です。
症状を有意に改善させることが示されています。

胃食道逆流症

除菌後に胃酸分泌が増加するため酸逆流性症状が悪化する懸念がありましたが、感染が胃前庭部に限局し(胃前庭部優位胃炎)、胃体部に炎症が強くない場合は高酸状態であるため、除菌により胃酸分泌が減少し、逆流性食道炎が改善すること報告されており除菌は勧められている。

特発性血小板減少性紫斑病

血小板減少をきたす後天性血液疾患。
ピロリ菌陽性患者の除菌により40~60%の症例で血小板増加が観察されている。

鉄欠乏性貧血

発症機序はいまだ解明されていません。
原因としてピロリ菌感染が関与している可能性は高いものの確証はなく、現時点では除菌治療を行うことを考慮しても良いというやや弱めの推奨となっています。

感染経路

ピロリ菌の感染経路は明らかになっていませんが、衛生環境が整備されていない時代や地域などでの経口感染によると考えられています。大人になってからの日常生活や食生活で感染はせず、まだ免疫力の備わっていない、そして胃の中の酸性が弱い幼児期に感染していると考えられています。そのため母親の口移しの栄養補給、保育所や幼稚園などで子供が嘔吐した吐物に多く存在するピロリ菌に触れた手で、他の子供や食物などに触れ、それが口に入った場合などは感染の原因のひとつと考えられます。(主に5歳までに家族内で感染するとされています。)

診断方法

ピロリ菌に感染しているかどうかを調べるのには種々の方法がありますが、単独でgold standardとなる検査がないため、必要に応じて各検査の特徴より複数の検査を組み合わせて診断します。
保険診療においては内視鏡的にH.pylori感染胃炎を認め、検査で陰性の場合は、他の検査を一つ追加できます。
除菌治療後の判定には尿素呼気試験及び便中H.pylori抗原測定が有用です。
ピロリ菌に対する静菌作用を有する薬物、ウレアーゼ活性を抑制する薬物は偽陰性になる可能性がありますので、少なくとも2週間は中止する必要があります。

1培養法

内視鏡検査により採取した組織で菌を培養する方法。ピロリ菌の胃内分布は一定でないため、いないところを採取するとサンプリングエラーの可能性があります。

2鏡検法

内視鏡検査により採取した組織を染色しピロリ菌の菌体を顕微鏡下で確認する方法。これも培養法と同様にサンプリングエラーの可能性があります。

3迅速ウレアーゼ試験(RUT)

内視鏡検査により採取した組織中に含まれるピロリ菌が出すウレアーゼという酵素の活性を検出する方法。除菌後の検出感度が低いのが欠点です。

4抗ピロリ菌抗体測定法(抗体法)

血液検査で血液中のピロリ菌 に対する抗体を調べる方法で、抗体法は過去の感染も認識することが他の検査方法と異なります。そのため除菌後も一定期間陽性が持続し、現在の感染状況を必ずしも反映しません。そのため、通常は除菌判定には使用しません。プロトンポンプ阻害薬などの影響が少ないとされており、保険診療上も薬剤内服中であっても測定可能です。

5尿素呼気試験法(UBT)

ピロリ菌が出すウレアーゼという酵素の活性を利用した診断法。診断薬(13Cという非放射性同位元素で標識された尿素)を服用し、ピロリ菌によって分解されたアンモニアと13C-二酸化炭素のうち、消化管で吸収され肺から呼気中に放出される13C-二酸化炭素を測定して行う検査法です。安全性も高く簡便で、感度(ピロリ菌がいる場合に検査で陽性となる割合)や特異度(ピロリ菌がいない場合に検査で陰性となる割合)がともに高い検査方法です。

6便中ピロリ菌抗原測定(便中抗原法)

糞便中のピロリ菌を検出する方法で、除菌判定にも使用可能です。
胃手術後の残胃における診断精度が優れています。実施にあたり水様便では抗原が希釈されるため、偽陰性になる可能性があります。

以上のように感染の診断には内視鏡検査は必須ではなく、上記の種々の方法で可能ですが、保険診療においては内視鏡検査を含めてピロリ菌を判定した後に、ピロリ菌陽性者に対して除菌治療が認められています。

除菌治療一連の流れ

内視鏡検査で「胃炎」と診断され、いずれかの感染診断方法で「ピロリ菌の感染あり」と判定された場合は、除菌治療の適応となります。
一方、検診などで「ピロリ菌陽性」と判定された方は、その後の内視鏡検査で「胃炎」と診断されれば保険診療で除菌治療が可能です。

除菌の治療薬

現在保険で承認されている除菌治療は、一次除菌療法と、それが不成功であった場合の二次除菌療法までとなっています。
一次除菌の除菌率は約70%、二次除菌の除菌率は約90%です。
二次除菌療法を先に試みることは現時点では保険で承認されていません。
〔一次除菌〕… 3種類の薬物を1日2回、7日間内服
①プロトンポンプ阻害薬もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーを1日2回(下記の薬剤より一つ選択)

ランソプラゾール(30mg)1錠1日2回 または
オメプラゾール(20mg)1錠1日2回 または
ラベプラゾール(10mg)1錠1日2回 または
エソメプラゾール(20mg)1カプセル1日2回 または
ボノプラザン(20mg)1錠

②アモキシシリン(250mg)3錠を1日2回
③クラリスロマイシン(200mg)1錠または2錠を1日2回
①プロトンポンプ阻害薬もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーを1日2回(下記の薬剤より一つ選択)

ランソプラゾール(30mg)1錠1日2回 または
オメプラゾール(20mg)1錠1日2回 または
ラベプラゾール(10mg)1錠1日2回 または
エソメプラゾール(20mg)1カプセル1日2回 または
ボノプラザン(20mg)1錠

②アモキシシリン(250mg)3錠を1日2回
③クラリスロマイシン(200mg)1錠または2錠を1日2回
備考

・プロトンポンプ阻害薬:
胃酸分泌を抑制する薬です。
ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール
・カリウムイオン競合型アシッドブロッカー
胃酸分泌を抑制する薬です。
ボノプラザン
・アモキシシリン
ペニシリン系の抗菌薬(抗生剤)です
・クラリスロマイシン
マクロライド系の抗菌薬(抗生剤)です

  • 近年クラリスロマイシン耐性の菌の頻度が増加し、一次除菌療法の除菌率は75%程度まで低下してきています。(最近のクラリスロマイシン耐性率は約30~40%存在すると考えられています。)これは上気道感染をはじめ、小児科、呼吸器科、耳鼻科領域などでクラリスロマイシンをはじめマクロライド系抗菌薬の使用頻度が高いことにより、胃の中のピロリ菌も耐性を獲得すると考えられています。
  • 今までクラリスロマイシンの用量は200mg/回または400mg/回となっていましたが、200mg/回と400mg/回では効果に差がなく、一方で400mg/回の方が副作用が多かったとする報告があり、「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」では、200mg/回が推奨されました。
〔二次除菌〕… 3種類の薬物を1日2回、7日間内服
①プロトンポンプ阻害薬もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーを1日2回(下記の薬剤より一つ選択)

ランソプラゾール(30mg)1錠1日2回 または
オメプラゾール(20mg)1錠1日2回 または
ラベプラゾール(10mg)1錠1日2回 または
エソメプラゾール(20mg)1カプセル1日2回 または
ボノプラザン(20mg)1錠

②アモキシシリン(250mg)3錠を1日2回
③メトロニダゾール(250mg)1錠を1日2回

  

   ※備考:メトロニダゾール
      ニトロイミダゾール系の抗原虫薬(抗菌薬の一つ)です

①プロトンポンプ阻害薬もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカーを1日2回(下記の薬剤より一つ選択)

ランソプラゾール(30mg)1錠1日2回 または
オメプラゾール(20mg)1錠1日2回 または
ラベプラゾール(10mg)1錠1日2回 または
エソメプラゾール(20mg)1カプセル1日2回 または
ボノプラザン(20mg)1錠

②アモキシシリン(250mg)3錠を1日2回
③メトロニダゾール(250mg)1錠を1日2回

メトロニダゾール
ニトロイミダゾール系の抗原虫薬(抗菌薬の一つ)

二次除菌療法を先に試みることは現時点では保険で承認されていません。 しかし、前述のようにクラリスロマイシン耐性率が高くなってきている現状では、何らかの方法でH.pyloriがクラリスロマイシン耐性であることが判明している場合には、メトロニダゾールを含んだ二次除菌療法の選択の推奨もされ始めています。

除菌治療の副作用

除菌中には一定の頻度で副作用の報告があり、下痢・軟便(約10~20%)、舌炎・口内炎・味覚異常(5~15%)、ショック、アナフィラキシー、発疹等の過敏症(2~5%)、肝障害、腎障害などがあります。
最も多い下痢・軟便に対しては整腸薬を併用し下痢を抑制できる効果が報告されています。稀に治療中止となるような強い副作用(激しい下痢、発熱、発疹、喉頭浮腫、出血性腸炎)を認めることがありますので、症状に応じて医師にご連絡ください。 これらの副作用は、特に高齢者で高まることはなく、高齢者で副作用を懸念して除菌を控える必要はありません。

二次除菌法でも除菌不成功となった場合

「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」では、シタフロキサシンを用いた療法または高用量のプロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン療法が推奨されていますが、まだ、統一した治療法は確立していません。
現在は保険適用外ですので自費診療となります。

※ シタフロキサシン:ニューキノロン系の合成抗菌薬

ペニシリンアレルギーのある方の除菌

ペニシリン系抗生物質を含まない療法となりますが、現在は保険適用外ですので自費診療となります。

一次除菌療法や二次除菌療法に含まれるアモキシシリンはペニシリン系の抗生物質であるため、ペニシリンアレルギーのある方には使用できません。従ってペニシリン系抗生物質を含まない療法となりますが、現在は保険適用外ですので自費診療となります。

①プロトンポンプ阻害薬1日2回+クラリスロマイシン200/400mg1日2回+メトロニダゾール250mg1日2回 7日間
②プロトンポンプ阻害薬1日2回+シタフロキサシン100mg1日2回+メトロニダゾール250mg1日2回 7日間
③プロトンポンプ阻害薬1日2回+ミノサイクリン250mg1日2回+メトロニダゾール250mg1日2回 7日間
などが推奨されています。

※ミノサイクリン:テトラサイクリン系の抗生剤

治療後の判定

除菌療法後は必ず除菌成功の有無を確認しなければいけません。
ガイドラインによれば除菌判定を行う時期は除菌内服終了後4週以降に実施するとされています。(できれば60日以上あける)

除菌完了後のフォローについて

除菌後も内視鏡などによる経過観察が必要です。

現在、衛生環境のよいわが国においては、一度除菌に成功すれば再感染の心配はまずないと考えられます。
除菌によって胃がんのリスクは低下し、とくに感染早期の除菌ほど胃がんの予防効果が大きいとされています。しかし除菌成功後にも胃がんが発見されることも臨床上少なくなく、除菌後に胃がんリスクがなくなったわけではなく残存するため、除菌後も内視鏡などによる経過観察が必要です。

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